マルゴーという言葉の響きが何とも美しいと感じてしまいます。フランス語ではMargaux、これも何だかフランス語っぽくて綺麗な文字です。ワインをあまり知らなくても、たぶん聞いたことがあるマルゴーとは?
マルゴーとは
マルゴーとはフランス・ボルドー地方のメドック地区のコミューン(同一とされるエリア)の名前です。また単にグランヴァン第1級のシャトーマルゴーを指す場合もあります。このコミューンは、マルゴー村・カントナック村・ラバルト村・アルサック村・スーサン村の5つの村からなり、ワインのアペラシオンもマルゴーAOCとなります。他の格付けシャトーを持っている村は一つの村でコミューンを形成していますが、マルゴーAOCは複数の村からなるところが特徴です。ぶどうの栽培面積は1500ヘクタールで、これはメドック全体の9%にあたります。
マルゴーではメドックの格付けシャトーが第1級から第5級まで22ものシャトーを持ち、その他格付けされていないシャトーを含め65のワイン生産者がいます。マルゴーで造られているワイン全てをマルゴーAOCと呼ばれるわけではありません。マルゴーをAOCを名乗るには、その基準を満たしたワインであり、その他はメドックAOCやボルドーAOCなど分類となります。マルゴーAOC及びメドックAOCは赤ワインのみ認められいるので、白ワインは全てボルドーAOCにランク付けされます。
少しややこしいのが第1級のシャトーマルゴーとこのコミューン名が同じである事です。マルゴーAOCのワインは、もちろん全てシャトーマルゴーではないので注意が必要です。ラベル表記にマルゴーの文字(Appellation Margaux Controlee)が入っていて、これをシャトーマルゴーと勘違いをしてしまう人がいるようです。シャトー名がコミューン名となっているのは、このマルゴーだけです。
マルゴーの味わいの特徴と土壌
味わいを一言で表現するのなら「エレガントで繊細、華やかで力強さを兼ね備える」でしょうか。代表的なシャトーマルゴーのイメージですが、他のワインも概ね似た土壌から出来るぶどうなので、マルゴーAOCの味わいのニュアンスとなります。砂利質な土壌はサンジュリアンやポイヤックなどと変わりはありませんが、やや粘土質土壌が多く見られるのが特徴です。粘土質質が多いということはメルローの栽培も多く、事実他の村のワインと比較して、カベルネソーヴィニヨン主体は変わりませんが、メルローの比率は高くなっています。従ってタンニンも柔らかい印象になり、繊細さが際立つワインとなります。
マルゴーの格付け
メドックの格付けのあるシャトーは全部で22です。以下はその格付け一覧。現実的にはその格付けに沿わない品質も見受けられますが、それぞれのシャトーは品質の向上に力を入れており、再び輝き出す日はそう遠くないことでしょう。
メドック格付け第1級
CH Margaux シャトーマルゴー |
メドック格付け第2級
CH Rauzan Segla シャトーローザンセグラ | CH Rauzan Gassies シャトーローザンガシー | CH Dufort Vivens シャトーデュフォールヴィヴァン |
CH Lascombes シャトーラスコンブ | CH Brane Cantenac シャトーブラーヌカントナック |
メドック格付け第3級
CH Palmer シャトーパルメ | CH d’Issan シャトーディッサン | CH Giscourt シャトジスクール |
CH Kirwan シャトーキルヴァン | CH Malescot St Exupery シャトーマレスコサンテグジュペリ | CH Cantenac Brown シャトーカントナックブラウン |
CH Boyd Cantenac シャトーボイドカットナック | CH Desmirail シャトーデスミライユ | CH Ferriere シャトーフェリエール |
CH Marquis d’Alesme Becker シャトーマルキダレムベッケル |
メドック格付け第4級
CH Pouget シャトープージェ | CH Prieure Lichine シャトープリューレリシーヌ | CH Marquis de Terme シャトーマルキドテルム |
メドック格付け第5級
CH Dauzac シャトードーザック | CH du Tertre シャトーデュテルトル | CH Cantemerle シャトーカントメルル |
人気があるシャトー
この格付けは玉石混交気味なので、買われる時には注意が必要かも知れません。近年評価の高いワインは・・・シャトーパルメ(第3級でありながら、ヴィンテージによってはシャトーマルゴーに迫るほどのスーパーサード)、シャトーローザンセグラ(1994年にファッションブランドのシャネルが買収して品質向上)、その他シャトーディッサン、シャトージスクール、シャトーブラーヌカントナック、シャトーデュフォールヴィヴァンなどが抜きん出ています。
失楽園ワイン
日本でシャトーマルゴーを一躍有名にしたのは、1997年に公開された映画「失楽園」です。渡辺淳一原作の同名小説が映画となり、TVドラマ化され「失楽園」は流行語大賞にもなりました。男女の不倫を描いた小説で、ラストシーンでシャトーマルゴーに青酸カリを入れて心中する場面が登場します。なんとも儚い映画ですが、世の男たちにとって刺激となったようです。その後当社にも「シャトーマルゴーというワインはありますか?」と何人か来店されました。値段を見て、その高さから買われる方はおりませんでしたが。ちなみに当時は2万円前後だったと覚えています。今考えると安く感じますが、当時にしてみれば高かったのでしょう。あとは洋画で1982年メリル・ストリープ主演の「ソフィーの選択」にも登場します。1937年物のシャトーマルゴーを飲んで「良い行いをして死んだら天国でもこんな素敵なワインが飲めるのかしら」としみじみとマルゴーの素晴らしさを表現」していました。
有名人に愛されたシャトーマルゴー
マルゴーはその魅力から多くの著名人に愛されてきました。古くはルイ15世の愛妾であったデュバリー夫人が宮廷で好んで飲んでいたようです。ちなみに第一愛妾のポンパードール夫人は、「ロマネコンティ」争奪戦でコンティ公爵に敗れてから、怒りのあまりベルサイユ宮殿からブルゴーニュワインを一掃してシャトーラフィットを好んだようです。またナポレオンのマルゴー好き、アメリカ大統領だったトーマスジェファーソンやニクソンなど。中でも一番有名なのは作家のアーネスト・ヘミングウェイでしょう。「マルゴーのように魅力的な女性になって欲しい」と孫娘にマルゴーと名を付けました。英語読みのマーゴ・ヘミングウェイはモデルや映画女優としても活躍し、日本でもCMに出演していました。マーゴのスペルは ワインと同じくMargauxでしたが、亡くなる前にMargotに改名しています。
おすすめのマルゴー
格付けワインに限らず、セカンドラベルやクリュブルジョワ級などおすすめのマルゴー地区で生み出されるワインをご紹介します。
パヴィヨン ルージュ デュ シャトーマルゴー/Pavillon Rouge du CH Margaux
シャトーマルゴーのセカンドラベルです。これなら頑張って手が届くかもしれません。ファーストラベルトとの違いは、メルローの比率がやや高い事、熟成に使う新樽の比率が50%(ファーストは100%)、熟成の期間が少し短い事です。セカンドと言ってもシャトーマルゴーの洗練されたエレガンスさはそのままで、パーカー氏も満点に近い点数を連発してます。
愛飲者の口コミ レヴュー
2003年のお品、1週間前にレストランに直接配送していただきました。当日は、ソムリエさんが1時間前に抜栓して準備して頂いておりました。 その香りは、部屋いっぱいに広がり、また、フレンチのコースのどの料理にも調和し、楽しい時間となりまして。ソムリエさんいわく、大変保存状態の良いお品ですとの事です。 妻との記念日にこちらを選んで良かったです。-匿名さんー
シャトー パルメ/CH Palmer
メドック格付け第3級でありながらシャトーマルゴーに次く品質と人気を誇っているワインです。メルローの比率が高いので、マルゴー独特の気品ある味わいに加え、骨格のある深みを感じるワインです。格付けをし直すとしたら第1級から第2級くらい、第1.5級レベルでしょう。ファンが多いので、価格もそのようなものになってはいますがお買い得感はアリです。
愛飲者の口コミ レヴュー
熟成後が楽しみ・・マイビンテージ購入し、長期熟成させてから味わってます。 熟成後タンニンが丸く滑らかになり、果実や花だけでなく キノコのような腐葉土の混じった複雑香りがとても好きです。 柔らかでありながら、芯が通った女性のようなマルゴーらしさが感じられます。 熟成させてから味わうことを強くオススメします!-匿名さんー
シャトー デュフォール ヴィヴァン/CH Durfort Vivens
メドック格付け第2級のワインです。1937年にシャトーマルゴーに買収されて、ぶどうはシャトーマルゴーやセカンドワインに使われていました。現在のオーナーであるリュルトン家になってから大改革して、品質もレベルアップ。知名度が低い分まだ安価であり、マルゴースタイルを愉しむにはコスパ良し。シャトーマルゴーとシャトーパルメの畑の間にあり、人気急上昇!
ル ルレ ド デュフォール ヴィヴァン/Le Relais de Durfort Vivens
第2級CHデュフォールヴィヴァンのセカンドワイン。ファーストワインの魅力をそのままに、もっとお買い得なワインです。60%をフレンチオーク樽、40%をイタリア製のアンフォラを使って熟成と珍しい試みをしている。
シャトー ディッサン/CH d’Issan
メドック格付け第3級のワインです。現オーナーのエマニュエルクルーズ氏の大規模な設備投資により、急激に品質を向上させたシャトー。著名なワイン誌でも96点を叩き出すなど、今後さらに価格が上がってしまうであろうと予測されます。シャトーもCHマルゴーに引けを取らない程美しい。
愛飲者の口コミ レヴュー
ディッサンの2012。初のディッサンです。まだ若いかと思いきや、もうこなれている。とても美味しい、マルゴーらしい強くも甘美な緑っぽさ、女性的なニュアンスで、余韻も半端ない。美味しいですね。-匿名さんー
ル オーメドック ディッサン/Le Haute Medoc d’Issan
メドック格付け第3級CHディッサンのセカンドラベル。オーメドックAOC。カベルネソーヴィニヨン60%、メルロー40%はCHディッサンと同じ。グランヴァンの製法そのままに、さらにお買い得なワインとなっています。このワインの下位にボルドーシューペリュールAOCのムーランディッサンがありますが、それはメルロー90%。
ラ シレーヌ ド ジスクール/La Sirene de Giscours
メドック格付け第3級CHジスクールのセカンドラベル。ファーストと同じ畑の若い樹から採れるぶどうを使っているワインで、製法は変わりません。早くから飲めるワインで、CHジスクール同様、マルゴーのエレガントな味わいもそのまま。近年CHジスクールの品質がどんどんと向上していっているので、このワインもそれに伴い安定した味わい。このワインの下位にメドックAOCのルオーメドックジスクールがある。
シャトー ラ トゥール ドモン/CH La Tour de Mont
クリュブルジョワ級のマルゴーAOC。カベルネ46%、メルロー44%、カベルネフラン8%、プティヴェルド2%と絶妙なバランスで凝縮感のある果実味と優雅な味わいを体感できる。マルゴー村に1615年からの長い歴史を持つシャトーで、格付け以上の実力があると評判のワインです。
おわりに
メドックの格付けは、古くからの呪縛のようにそれぞれのシャトーを悩ましてるのかも知れません。格付けがありながら見放されているシャトーや、低い格付けだけど抜群の人気と実力を備えているシャトーなど様々です。「昔の格付けなんか気にしないぜ」と言いながら、いつか来るかも知れない格付け再編の日を待っているシャトーもあるかも知れません。CHマルゴーの知名度に隠れてしまっているシャトーはたくさんあります!ラベルにAppellation Margaux Controlee の文字を探してみてくださいね。