クロ ド ヴージョの特徴と歴史 おすすめの6選

フランスワインの高級ワインを思い浮かべると、ブルゴーニュワインでは必ず名前が挙がるクロ ド ヴージョ。グランクリュでありながら、数奇な運命に翻弄されたワイン。また「少し厄介なワイン」と呼ばれたりもしています。そのクロ ド ヴージョ(クロ ド ヴァージョ)について解説していきます。

クロ ド ヴージョとは

コートドニュイ地図
コートドニュイの地図

クロ ド ヴージョ(ヴァージョ)とは、フランス・ブルゴーニュ地方のコートドニュイ地区にあるヴージョ村の特級畑の赤ワインです。クロ(Clos)とはブルゴーニュで良く見かける「石垣に囲まれた畑」を意味し、グランクリュのみに付けられています。ヴージョ村はシャンボール ニュジニー村とフラジェ エシェゾー村に挟まれた好立地で、村の畑全体の面積は、65.86ヘクタールです。そのうち50.96ヘクタールが特級畑で、何と全体の77%がグランクリュという他では見かけない特殊な村となります。クロ ド ヴージョ全体の年間平均生産本数は219,051本(ブルゴーニュワイン委員会調べ)

ヴージョ村のワイン

ヴージョ村地図

ヴージョ村では、グランクリュであるクロ ド ヴージョの他に、4つのプルミエ クリュ(11.68ヘクタール)、村名ワイン(3.22ヘクタール)があります。赤、白両方の生産が認められており、ピノノワール種、シャルドネ種、ピノブラン種が栽培されています。栽培面積から分かるように、プルミエクリュや村名ワインは赤・白とも非常に少なくあまり見かけることはありません

グランクリュ名:Grand Cru / 赤
Clos de Vougeot(クロドヴージョ)
クロ ド ヴージョ
プルミエクリュ名:Vougeot Premier Cru(1er Cru)/ 赤・白
Les Petits Vougeot(レ プティ ヴージョ)
Le Clos Blanc(レ クロ ブラン
Le Cras(レ クラ)
Clos de la Perriere(クロ ド ラ ペリエール)
ヴージョ プルミエクリュ一覧
コミュナル(村)名:Vougeot / 赤
Vougeot(ヴージョ)
村名ワイン

クロ ド ヴージョの特徴

クロ ド ヴージョの特徴は、何といっても特級畑の大きさとその所有者の多さにあります。畑の大部分が特級畑であり。畑の所有者は80近くにも上り、生産者は71社となっています( ブルゴーニュワイン委員会のリストより、2021年9月)

上の地図を見るとグランクリュの畑が、国道74号線ギリギリまで接しています。畑は東を向いているので、上部(西)から東へかけてなだらか傾斜があるので国道沿いは低い場所です。ここまで低いグランクリュ畑は他にはありません。通常コートド ニュイでは、グランクリュ畑は上部に位置し、中程がプルミエクリュ、下部が村名ワインとなっており、如何にクロドヴージョが特殊なのかが理解できます。

この村の標高は概ね250m程ですが、上部から下部の標高差は4m程あります。4mぐらいでと思われるかも知れませんが、ぶどうの生育にはこの4mの差が大きく左右することなります。また土壌に関しても、上部はコンブラシアン石灰岩が主体で水はけが良く、中部は砂利が多く、下部は粘土質が多いとの特徴があります。ヴージョ村で畑造りが始まった時代には、上部を「教皇の畑」中部を「王の畑」、下部を「修道士の畑」と呼んでいました。

クロ ド ヴージョの歴史

1098年この村にシトー派の修道院が設立されました。ブルゴーニュの領主たちは修道院に土地を寄進し、1110年にはぶどう栽培が始まったとされます。シャンボール ミュジニー村との境にヴージョ川(Vouge)が流れていることから、ヴージョ(Vougeot)の名が付きました。シトー派修道院はその後も畑の開墾と取得に力を入れ、1336年にはこのクロ ド ヴージョの畑は、シトー派修道院の単独所有になりました。

しかし1789年のフランス革命により、この畑も他と同様に国に没収されることになります。競売にかけられ細分化されてしまうのを阻止するためには、かなりの資金が必要です。そこで立ち上がったのが銀行家であったガブリエル ジュリアン ウーヴァールが資金を出して入手します。その後ウーヴァールの相続人たちが管理をしていましたが、19世紀後半のフィロキセラで畑が全滅してしまいます。やむなく売りに出そうとすると、買い手は外国の資本家だったそうです。地元のネゴシアンたちはそれを阻止するために、資金を調達して共同で持つことになりました。

ところがなんの手立てもなく自然と分割され始め、1889年にブルゴーニュのネゴシアンに売却され、単独所有畑の歴史が終わってしまいます。当初の所有者は15でしたが、第一次世界大戦で壊滅となり1920年に売りに出された時は、所有者は40に増え、その後細分化を繰り返し、現在の所有者80近く(変動しているようです)になったのです。海外資本に乗っ取られない様にと動いた結果がかえって仇となり、取り返しが付かなくなってしまったまさに悲運の畑としか言いようがありません。

所有者が多いとどうなる

所有者が多いと品質の安定に問題が生じます1つの畑に所有者が70を超えているのは、際立つ特殊事例です。畑の所有者は様々なケースが考えられます。自らぶどうを造りワインまで造るドメーヌ、ぶどうのみを造りネゴシアンに販売する所有者、ネゴシアンが持ってる場合などです。ここで容易に想像出来るには、その管理のバラつきです。例えばある畑の上にある畑の所有者が管理を怠り、荒れた畑にしてしまったらどうでしょう。水はけの問題などで下の畑に影響が出るかも知れません。同じ土壌でも手間をかけ愛情を注いだ畑のぶどうと、そうでないぶどうでは違いが出るのが明らかです。

所有者が少なければ一貫した管理が出来て、安定した品質が保てるのではないでしょうか?例えば、所有する畑の上部と下部のぶどうをブレンドし、品質のばらつきをなくすとかです。所有者が異なれば出来るものではありません。ラベルに生産者の記載義務もない頃には、品質の不安定さにがっかりした消費者も多くいたようです。1982年に英国のワイン評論家が管理体制にメスを入れてから、それぞれの所有者は品質向上に対し襟を正すようになり、少しずつ改善され今に至っています。

クロ ド ヴージョのクリマ

クロ ド ヴージョの畑には15のクリマ(区画)があります。但しフランスのアペラシオン政令には、正式にクリマやリューディとしての記載はありません。以下16のクリマ名です。

Grand Maupertui
グラン モーペルチュイ
Les Chioures
レ シウル
Musigni
ミュジニ
Petit Maupertui
プティ モーペルチュイ
Plante l’Abbe
プラント ラベー
Dix Journaux
ディ ジュルノー
Baudes Hautes
ボーデ オー
Quartier de Marie Haut
カリタ デ マリー オー
Plants Homor
プラン オモー
Baudes Basses
ボーデ バー
Quartier de Marie Bas
カリタ デ マリーバー
Montiotes Hautes
モンティオテ オー
Baudes Saint Martin
ボーデ サンマルタン
Garenne
ガレンヌ
Montiotes Basses
モンティオテ バー
クロドヴージョのクリマ一覧

この中で最高の区画とされているのがグラン モーペルチュイ(グランモーペル テュイ)とミュジニ(=Musigni、隣のシャンボール ミュジニー(=Musigny)と混同されやすい)です。但し、このクリマ名まで記載するドメーヌはほとんどいません。ヴォーヌ ロマネのようにクリマにグランクリュが与えられているのではなく、クロドヴージョ畑に与えられているので、あまりメリットを感じないからだと言われています。例外的にラベルに記載してるドメーヌは以下です。

  • ドメーヌ アンヌ グロ及びミッシェル グロ・・・グラン モーペルチュイ
  • グロ フレール エ スール・・・ミュジニ(最近は記載を外しているようです)

ボルドーのグランヴァン格付けのように、今格付けをしたら変わるであろうと想像するのと同じく、このクロドヴージョの畑のアペラシオン名も評価も再構築すればどれだけすっきりとするか、恐らく多くのヴージョファンは思っている事でしょう。歴史が歪めた事実は、そう簡単には行きそうにもありませんが。

シャトー ド クロ ド ヴージョ(クロ ド ヴージョ城)

ブルゴーニュワイン全体のシンボルとして、村の西にシャトー クロ ド ヴージョ(クロ ド ヴージョ城)があります。ここはフランス革命以前まで、ワイナリーとして機能しており、ワインを造っていました。現存してる建物は、1551年にシトー派修道院の48代修道院長であったドンロワジエが建てたものです。 現在はブルゴーニュワインの歴史を見る博物館であり、また ブルゴーニュ利き酒騎士団の本拠地として機能しています。

ブルゴーニュ利き酒騎士団とは

ブルゴーニュ利き酒騎士団(シュバリエ ド タストヴァン)は、1934年に設立された国際的なワインソサエティーです。会員は世界で10,000名ほどおり、日本でも150名ほどが会員となっています。騎士団の目的はブルゴーニュワインの価値と品質の向上で、年に2回優秀なブルゴーニュワインの認定を行っています。春には赤ワイン、秋には白ワイン、スパークリングワイン、ボジョレーの評価をします。ヴージョ村のワインだけではありません。

認定には250名程のワインの鑑定に携わるプロを招集して、生産者名を隠して試飲を行います。そこで、その銘柄と特徴を良く表現されているワインを「タスト ヴィナージュ」として認定をし、呼称することを許されます。認められたワインにはラベルに、騎士団の紋章を付ける事が出来るのです。以前は緑色でしたが近年デザインが変更になりました。旧デザインのほうが古めかしくて良い気がしますが・・何だか時の流れを感じます。ラベルデザインが統一されていることから、一つのドメーヌやブランドと間違って認識されている方も多くいますが、このマークは分かりやすく言えばコンクールのメダルのようなものと思って下さい。

タストヴィナージュラベル旧型
旧デザインのタストヴィナージュの紋章/上部のみ
タストヴィナージュラベル新型
新デザインのタストヴィナージュの紋章/上部のみ

クロ ド ヴージョの当たり

最優秀年・・1990年、1996年、2005年、2009年、2010年、2015年  優秀年・・1995年、1999年、2002年、2012年、2014年、2016年、2017年。

当たり年はぶどうの力が強く、長期熟成に耐えるので、飲み頃は15~20程度とお考え下さい。平均的には10年程度が飲み頃です。凡庸な年であれば5年~10年で飲まれたほうが良いと思われます。ボルドー系と違いデリケートですので、このような高いレベルのワインは保存に注意が必要です。セラーが無ければ、陽が当たらないよに包み、横に寝かせて温度差のあまりないような場所で保存して下さい。(変ですが、押し入れなどはおすすめです)

著名なドメーヌ

畑の上部が「教皇の畑」として秀逸だと前述しましたが、実際にはそう単純なものではありません。上部の畑のワインでも、凡庸なワインもありますし、下部でも優れたワインを造るメーカーも存在します。そこがクロ ド ヴージョの難しさで、手に入れる時には慎重に成らざるを得ません。価格も1万円代から20万円代と、同じグランクリュでも相当な価格差があるのです。ここでは著名で世界的にも認められているドメーヌをご紹介します。

  • ドメーヌ メオ カミュゼ・・・クロドヴージョの畑全体で3.03ヘクタールを所有。メインは黒ヴージョ城の下にあるレ シウルの区画。
  • ドメーヌ アンヌ グロ・・・最高の区画とされるグランモーペルチュイに0.93ヘクタールを所有。ラベルにはグランモーペルチュイの記載がされている。
  • グロ フレールエスール・・・シャンボールミュジニー村に隣接しているミュジニ区画0.93ヘクタールを所有。ラベルにMusigniの記載がされている。
  • シャトー ド ラトゥール・・・ディジュルノー区画主体に、クロドヴージョ最大の面積を持つドメーヌ。畑内に醸造場所を持つ唯一のドメーヌ。
  • ドメーヌ アラン ユドロ ノエラ・・・ガレンヌ区画主体に全体で1.22ヘクタール。ロバートパーカーの評価も高い。
  • ドメーヌ ド モンティーユ・・・レシウルの区画に0.29ヘクタール所有。
  • ドメーヌ ルロワ・・・上部、中部、下部の3つの区画を持つ伝説の名門ドメーヌ。古いヴィンテージには100万円を超えるものも見かけます。
  • ドメーヌ フランソワ ラマルシュ・・・モンティオテオーの区画主体に所有。最近はニコルラマルシュの名でワインを出している。

おすすめのクロ ド ヴージョ

ヴージョのプルミエクリュや村名ヴージョは流通量が少ないので、見つけてもクロ ド ヴージョ(グランクリュ)とあまり価格差がありません。よってクロ ド ヴージョ一択です。安定した品質であるおすすめのクロ ド ヴージョをご紹介します。

メオ カミュゼ

メオカミュゼクロドヴージョ
メオカミュゼ

レ シウル区画という絶好の場所から造り上げるクロ ド ヴージョ1.2を争う銘酒。ブルゴーニュの神様アンリ ジャイエがコンサルをしていたことでも有名で、実質アンリ ジャイエの後継者とされる。手摘みの収穫で、木樽にて平均17カ月熟成。しなやかなタンニンと繊細な酸味、複雑な香りがエレガントさを引き出しています。意外と早くから楽しめる。

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ジャン グリヴォ

ジャングリヴォクロドヴージョ
ジャングリヴォ

ジャン グリヴォの区画は下部だが、素晴らしいワインを造り上げている。若いうちは粗い印象を受ける程力強いワインで、飲み頃は10年程熟成を要します。ロバート パーカー氏は「1980年以降はここのワインは一貫してブルゴーニュの最上クラスにある。」と評価も高いドメーヌ。ヴォーヌロマネが主体であるが、ヴージョ村でもその真価は発揮されています。官能的なアロマと凝縮した果実味が持ち味。

クロ ド ヴージョ グラン クリュジャン グリヴォ

ドルーアン ラローズ

ドルーアンラローズクロドヴージョ
ドルーアンラローズ

ドルーアン ラローズはジュヴレ シャンベルタン村で古くからワイン造りをしている名門で、特級畑を6つも所有しており、どれも最高の区画と人気も高いドメーヌです。クロ ド ヴージョでは、プラント ラベと カリタデ マリー オーという上部の優良な区画を持ち、気品あるクロ ド ヴージョを造り上げています。ブラックベリーなどのアロマとオーク樽由来の上質なタンニンを持ち、力強く優雅な印象を持つワイン。

クロ ド ヴージョ ドルーアン ラローズ

フランソワラ マルシュ(ニコル ラマルシュ)

ラマルシュクロドヴージョ
フランソワラマルシュ

ヴォーヌロマネ村のモノポール「ラ グランド リュ」を所有するフランソワラ マルシュ。その他にはエシェゾーやグランエシェゾーを所有しています。フランソワ亡き後娘さんのニコルが当主になり、ラベルもニコル ラマルシュに変更になっています。クロ ド ヴージョでは立地条件の良い区画を4つ所有しており、合計1.35ヘクタールとなる。ニコルになりますます評価が高まっていますが、まだ価格が上昇しておらず、お買い得のワインと言えます。私が来訪した際に色々と丁寧に教わった経験があるので、個人的な想いを込めておすすめします。

グロ フレール エ フィス

グロフレールクロドヴージョ
グロフレール

グロ フレール エ スールのクロ ド ヴージョは、シャンボール ミュジニー村に面しているミュジニ区画という絶好の場所から生まれます。2015年まではラベルにMusigniの名が記載されていましたが、2016年には無くなっています。グロはボーデ オー区画にも1.5ヘクタール所有しているので、その区画のぶどうもブレンドして、ミュジニの記載を無くしているのかも知れません。いずれにしても品質は最高レベルであり、コストパフォーマンスに優れたワインだと言えます。

ドメーヌ グロ フレール エ スール / クロ ド ヴージョ

ドメーヌ アラン ユドロ ノエラ

ノエラクロドヴージョ
アランユドロノエラ

かつてブルゴーニュの二人の王者、アンリ ジャイエとシャルル ノエラ。そのシャルル ノエラのテロワールを継いだ孫によるドメーヌです。ガレンヌ区画という上部の最高の場所を持ち、素晴らしいワインを造り上げています。ノエラは他にシャンボール ニュジニーやニュイ サンジョルジュでも卓越したテロワールの畑を引き継ぎ、ロバート パーカーから「探し求めてでも手に入れるべき宝石のようなワイン」と絶賛されています。

おわりに

歴史に翻弄され非常に評価が割れるグランクリュですが、基本はとても素晴らしい畑であり残念な場所です。同じクロ ド ヴージョでも、最高レベルの評価が得られるドメーヌもある反面、がっかりすることもあるようです。基本はネゴシアンものではなく、自社畑自社造りのドメーヌものを選ぶべきです。もし1万円前半のものがあったとしても、手を出さないほうが良いと思います。もし再構築できるのであれば、ヴォーヌロマネにも勝るとも劣らないグランクリュが誕生するのは間違いないと思われる悲運のアペラシオンです。お買い求めの際はヴィンテージのチェックをお忘れなく!

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