ブルゴーニュのコートドニュイ地区の中では、それほど目立つ存在ではないと思われるモレ サンドニ。しかし分析をしていくと一般的な印象よりも魅力的で、過小評価のままのような気がします。どのようなワインを造っているところなのか、ご紹介していきます。きっとイメージが変わってくるのではないでしょうか。
モレサンドニとは
モレサンドニとは、フランス・ブルゴーニュ地方のコートドニュイ地区のモレサンドニ村およびその村名ワインのことです。面積は137ヘクタール前後南北に1.2キロの大きさで、それ程広くはありません。北のジュヴレシャンベルタン村、南のシャンボールミュジニー村に挟まれています。煌めくスター村に埋もれてしまっている為に、今まで注目されることはあまりありませんでした。事実60年程前までは、そのぶどうのほとんどがネゴシアンを通じ、ジュヴレシャンベルタンやシャンボールミュジニーとして売られていた、少し悲しい事実があるのです。そんな小さな村にグランクリュの畑が5つ、プルミエクリュの畑が20も存在するのには驚きです!
モレサンドニの特徴
味わいの特徴
村全体のワインの評価は、豊満なボディを持ちしっかりとしたストラクチャーとタンニンを感じます。果実味とボディのバランスがとれており、熟成によってなめし革やジビエ・トリュフなのどイメージが現れます。色味はいきいきとしたルビー、深紅、凝縮したガーネットで紫を帯びた美しさがあります。グランクリュのクラスになると、若いうちのタニックさが年とともに角が取れ、奥深く複雑性を増し深みのある味わいに変化を遂げます。
隣のジュヴレシャンベルタンは男性的なワイン、シャンボールミュジニーは女性的なワインと称されますが、モレサンドニはその両方を兼ね備えたワインと称するのが一番ふさわしい表現でしょう。であれば過去に隣村へ売られても違和感はなかったと推測されますが、逆に考えれば無敵?なワインではないでしょうか。ブルゴーニュワイン委員会の資料では1855年にはジュールラベル博士が「このワインに欠けているものは何もない」と評価してる記載があります。
テロワール
モレサンドニの畑のイメージが分かりやすいYouTubeがありましたので、参考にして下さい。(出典:ブルゴーニュワイン委員会:Vins de Bourgogne BIVB)
畑はジュラ紀(2.1億年前~1.4億年前、鳥類が誕生した頃って想像も付かない時代!)中期の石灰質と粘土石灰質の上にあります。畑全体が東を向いており、標高は220~270m。村の下では泥炭土が多くなります。小石が多く含まれている為、水はけが良くテロワールとしては絶好な条件を有しています。グランクリュの畑では微妙な地質の違いにより、個性あるワインが造り上げられています。
宗教色が強い畑
クロドヴージョはシトー派の修道院一つで畑が広がった経緯がありますが、モレサンドニはシトー派修道院、タール修道院他ヴェルジー家などのブルゴーニュの貴族が多く土地を持っていました。それにより、特にグランクリュの名前には修道院の名前や聖人の名前が付けられ、現在でもその名前が多く残っています。
モレサンドニのグランクリュ
モレサンドニのグランクリュ(特級畑)は5つあり、その面積は40へクタールで全体の約3分の1を占めます。如何に素晴らしいテロワールを持っているかがうかがえる数字です。
クロ ド ラ ロッシュ(Clos de la Roche)・・・5つのグランクリュ中最大の面積16.9ヘクタール。北に位置しており、ジュヴレ シャンベルタン村に隣接しています。シャンベルタンに近い深みのある素晴らしい凝縮感と、豊富なミネラルを持つモレサンドニを代表するワインになります。ロッシュとは岩の意味であり、石灰岩が多いことからその名がついています。ドメーヌポンソは3.35ヘクタールを所有する一番の地主。
クロ サン ドニ(Clos Saint Denis)・・・クロ ド ラ ロッシュよりもエレガントでリッチな味わいになる。6.62ヘクタールと大きくはありません。聖ドニ(サンドニ)が率いた会派がこの地にぶどうを植えたことから、その名が付いたとされます。モレサンドニの名前の由来となった畑。
クロ ド タール(Clos de Tart)・・・1141年にシトー派のタール女子修道会により畑が出来上がった。7.53ヘクタールで過去に一度も分割されることなく、長方形の綺麗な形をしている単独所有(モノポール)の畑です。フランス革命後にマレモンジュ家が買取り、1932年にはモメサン家の所有になりました。2017年には実業家であるフランスソワ アンリ ピノー率いるアルテミスが買収をして現在に至ります。アルテミスは、サンローラン、グッチ、バレンシアガなどを所有するケリング(旧名PPR)やシャトーラトゥール、クリスティーズを所有する持ち株会社。旧ヴィンテージにはラベルに右下にモメサンの記載があるが、現在は無くなっています。
分割もされず、所有者が3人しか変更されていない特殊な畑であり、ぶどうの平均樹齢は60年を超えており、古い樹は100を超えてると言われています。スミレなどのエレガントな香りとしっかりとしたストラクチャーを持っており、モレサンドニのみならずブルゴーニュワインの神髄を伝えるワインとして注目されています。ブルゴーニュでは珍しいセカンドラベル「モレサンドニ プルミエ クリュ ラフォルジュ ド タール」を2006年からリリースしています。
クロ デ ランブレイ(Clos des Lambrays)・・・1365年にシトー派修道院によって造られた畑で、フランス革命後には74の区画に分割されてしまいました。その後所有者が変わり1979年にはサイエ家が買取り、畑を始めワイン造りの改革を行いかつてプルミエクリュであったこの畑を1981年4月27日にグランクリュへ押し上げました。8.84ヘクタールある畑の99%が現在の所有のドメーヌ デ ランブレイであることから、実質のモノポールとなります。
ドメーヌ デ ランブレイの所有が8.69ヘクタール、残り0.15ヘクタールはドメーヌ トープノ メルムでワインにしてわずか300本程度。皆さんが考えるように、売却してあげたらいいのに?って思ってしまいますよね。ドメーヌ デ ランブレイは、ルイヴィトンやモエなどを所有するLVMH社が2014年からオーナーになっています。味わいは力強さとエレガントな味わいを持ち、バランスの取れたフィネスが豊かな味わい。
ボンヌ マール(Bonnes Mares)・・・隣のシャンボールミュジニー村にまたがっている畑。モレサンドニ側に1.51ヘクタール、シャンボール ミュジニー側に13.54ヘクタール。所有者はブリュノ クレールとフジュレイ ド ボークレールのみ。日本にもちゃんと輸入されていました。グランクリュではないがシャルドネとピノブランが植えられており、しっかりとした白ワインの造られています。
モレサンドニのプルミエクリュ
プルミエクリュの畑は20あり、モン リュイザン・レ シャフォ・コートロティを除けばグランクリュの下部に位置しています。ブルゴーニュのプルミエクリュの中でもモレサンドニはレベルが高いワインが造られており、シャンボール ミュジニー並の優雅さとそのポテンシャルで高い人気を誇っています。代表的なプルミエクリュは以下の通り。
- モン リュイザン(Monts Luisants)・・・グランクリュのクロドラロッシュの上の標高の高い場所に位置しています。グランクリュに匹敵する赤ワインももちろんですが、ここの特徴はプルミエクリュの白ワインを造っている事です。ドメーヌポンソはクロデモンリュイザンというモノポール畑で、コートドニュイで唯一アリゴテ種を使う事を許された特殊な事例。その他にドメーヌデュジャックがシャルドネで白ワインを造っています。
- レ ジュナヴリエール(Les Genavrieres)・・・モンリュザンに隣接しており、この畑もクロドラロッシュの上に位置しています。力強さと繊細さを持ち、上質なアロマを感じます。
- レ ルショット(Les Ruchots)・・・道を挟んでグランクリュのクロ ド タールとボンヌ マール隣接している絶好の場所。繊細なタンニンと凝縮感があるワインに仕上がります。
- レ ミランド(Les Millandes)・・・グランクリュのクロ ド ラ ロッシュの下に位置する畑。エレガンスなイメージとしなやかで凝縮感を感じるワインに仕上がります。
- クロ ソルベ(Clos Sorbe)・・・石灰質が多く、水はけがよい畑とされており、一級畑の中でも評価が高いとされています。
- レ シェネヴェリー(Les Chenevery)・・・しっかりとしたミネラル感と酸味、安定感のある果実味があります。
- オー シャルム(Aux Charmes)・・・非常に小さな畑で、繊細でありかつ優しいイメージを持つワインに仕上がります。名の通り(シャルム=チャーミング)な印象。
Aux Charmes オーシャルム | Cote Rotie コートロティ | Les Chaffots レシャフォ | Les Gruenchers レグルネンシエール |
Aux Cheseaux オーシェソー | La Bussiere ラブシエール | Les Charrieres レシャリエール | Les Millands レミランド |
Clos Baulet クロボーレ | La Riotte ラリオット | Les Chenevery レシェネヴェリー | Les Ruchots レルショット |
Clos des Ormes クロデオルム | Le Village ルヴィラージュ | Les Faconnieres レファコニエール | Les Sorbes レソルベ |
Clos Sorbe クロソルベ | Les Blanchard レブランシャール | Les Genavrieres レジェナヴリエール | Mont Luisants モンリュイザン |
モレサンドニの当たり年
コートドニュイのほぼ中央に位置している為、ニュイの他の村と当たり年とほぼ変わりはありません。グレートヴィンテージ・・2015年、2010年、2009年、2005年、1996年、1990年 / 優秀なヴィンテージ・・2017年、2016年、2014年、2012年、2002年、1999年。1995年。偉大な年ほど飲み頃に達するまでの時間がかかります。グランクリュは最低10年出来れば15年寝かせたほうが良いかと思われます。
オフヴィンテージとは、美味しくない年ではありません。確かにぶどうの出来がグレートヴィンテージに比べいまいちですが、長期熟成にはあまり向かないと覚えて下さい。逆に言えば早くから楽しめるのです。そもそも自らのラベルを貼って世に出すドメーヌにとって、悪いものは出せません。ぶどうの房の良し悪しを選別して、ワインの生産量を減らしたりと調整をしているのです。
主要な生産者
モレサンドニ村を代表する生産者として2大スターである、ドメーヌ ポンソとドメーヌ デュジャックが群を抜いて有名です。古い歴史を持つドメーヌと新しい気鋭のドメーヌ(といっても60年近い)・・面白いですね。もちろん近隣の村のドメーヌも黙ってはいません。小さな区画をもっていたり、信頼のおけるぶどうを買付て素晴らしいワインも数多くあります。
ドメーヌ ポンソ(Domaine Ponsot)・・・1872年から続く伝統的なドメーヌ。1932年にはブルゴーニュでは珍しかったドメーヌ元詰め(醸造から瓶詰めまで行う生産者)をいち早く取り入れて、事業展開を行いました。また1936年のブルゴーニュのAOC認定時に貢献をしたどーめーぬとして知られています。ポンソがこの村で所有してる畑は11ヘクタールで、希少なのは前述した通り、アリゴテで造られるモノポール「クロ デ モンリュイザン ブラン」です。発酵に使うのは伝統的な製法で古い木樽を使い、新樽は使いません。ポンソはモレサンドニの他、ジュヴレシャンベルタンやシャンボール ミュジニーにグランクリュを主に素晴らしい畑を所有しています。
ドメーヌ デュジャック(Domaine Dujac)・・・ドメーヌポンソと並びモレサンドニをけん引するドメーヌ。1968年初リリースとポンソとは対極の新興のワイナリーです。当主のジャンクセイスはベルギー出身で、古い伝統を持つブルゴーニュのドメーヌの中では珍しく一代で名声を得た人物です。ヴォルネイのプスドールやロマネコンティのヴィレーヌに師事し、ワイン造りを研究しました。現在ではモレサンドニのグランクリュ、クロ ド ラ ロッシュやクロ サンドニのみならず、シャルムシ ャンベルタンやボンヌ マール、エシェゾーなど有名畑まで拡大を図っています。
おすすめのモレサンドニ 12選
シャンボールミュジニー村とジュヴレ シャンベルタン村にはさまれ、やや忘れ去られがちのモレサンドニ村。実力と価格がまだ一致していないワインも見かけます。生産量が総じて少ないブルゴーニュで価格も高くなっていますが、その状況はこれからも続くでしょう。早めに手に入れてゆっくり寝かせられる事が出来れば、頑張ってみては如何でしょうか?早めに楽しみたい方は先ずは村名ワインがおすすめです!
村名ワイン
ジャンテ パンショ
ジャンテ パンショはジュヴレ シャンベルタン村に本拠地を構えるドメーヌ。ジュヴレ シャンベルタンのみならず、シャンボール ミュジニーやモレサンドニでも素晴らしいワインを造る信頼のおけるドメーヌで評価も高い。一番の魅力は古い樹齢のぶどうの樹から造る、果実味の凝縮感と上品な酸味の絶妙なバランス。
ルー デュモン
ルー デュモンは日本人・仲田晃司さんが2000年に設立したネゴシアン。2008年にはジュヴレ シャンベルタン村に自社畑を取得し、ネゴシアンのみならずドメーヌとしても始動しています。生前のブルゴーニュの神様アンリ ジャイエ氏から絶賛され、瞬く間に注目の的になりました。「人は天と地により生かされている」という考えに基づき、ラベルには天・地・人の文字のデザインがなされている。
ドメーヌ ポンソ キュヴェ デ グリーヴ
名門ポンソが造る村名ワイン。それぞれのキュヴェ(=特定の区画やロット・発酵槽で造られるワイン)には鳥の名前が付けられています。これはグリーヴ(つぐみ)。小石の多い石灰岩土壌の畑のぶどうから造られ、ややスパイシーさを感じる厚みのあるスタイルで、プルミエクリュに匹敵すると称されています。
ドメーヌ デュジャック
モレサンドニで名声を誇るドメーヌ デュジャックの村名ワイン。シャンボール ミュジニーに隣接する区画ポルーとクロ ソロンという区画のぶどうから造られます。新樽比45%のオーク樽後、ろ過せずに瓶詰め。濃厚なアロマに加えスモーキーなニュアンスを持ち、シルクのようなタンニンが特徴。
ドメーヌ デ ランブレイ
グランクリュのクロ デ ランブレイを所有するドメーヌ デ ランブレイの村名ワイン。クロ デ ランブレイとクロ ドタールの上部にある2区画のぶどうから造られる村名らしからぬ上質なワイン。果実のアロマにスパイスやミネラルのニュアンスを持ちます。しっかりとした酸味を持ち重厚なスタイルに仕上がっています。
プルミエクリュ
マーク ハイスマ レシャフォ
異色のマイクロネゴシアンであるマーク ハイスマは、オーストラリアでワイン造りをしていたワイナリー。ブルゴーニュでワイン造りをしたいというの信念のもと2009年から本格的にワイン造りを始めました。2016年にはヴージョに自信のワイナリーを設立。このワインは一級畑レシャフォーのぶどうを使ったプルミエクリュです。注目されるきっかけになったのが、2017年にニュジーランドに行われた世界的なピノノワールのイベント「Pinot Noir NZ 2017」でMWのジャンシスロビンソン氏が世界中から2本のワインを選出した際の1本がこのモレサンドニ・レ シャフォーであった為、一躍世界中が注目することになりました。
ドメーヌ ポンソ クロ デ モンリュイザン 白
名門ポンソがプルミエクリュ モンリュザンにモノポールとして所有するクロ デ モンリュザンの白。唯一アリゴテ種を使う事を許されてる希少な逸品で、樹齢なんと100年を超えるアリゴテを使い、凝縮した果実味と心地よい酸味のバランスが見事。豊富なミネラル感を持ち長期熟成に耐えうる力を持つ。
ラフォルジュ ド タール プルミエクリュ
グランクリュ畑のモノポールで、絶対的人気を誇るクロ ド タールのセカンドワイン。畑の中で樹齢25年以下のぶどうを使い造られ、プルミエクリュとして出されます。醸造はクロドタールと同様に造られるので、若いトップキュヴェそのもの。若いうちから飲むことが出来るのもポイントが高い。凝縮感ある果実味ときめ細かなタンニン、スパイスなどの印象を持ったお買い得な逸品。
フランソワ フュエ クロ ソルベ
ドメーヌ フランソワ フュエのプルミエクリュクロ ソルベのワイン。フュエ氏が次世代の注目醸造家ダヴィッドデュパン氏の才能をいち早く注目し醸造を任せている。クロ ソルベの自社畑は北に位置しており、石灰質を多く含みグランクリュに近い味わいが特徴。
グランクリュ
ドメーヌ ポンソ クロドラロッシュ
モレサンドニを代表するポンソのグランクリュ クロ ド ラロッシュ。モレサンドニの中では一番長期熟成する偉大な畑で、凝縮感ある果実味と繊細なタンニン、豊富なミネラル感でエレガントな味わいで世界を魅了しています。
クロ ド タール
前述したように過去に一度も分割をされたことがないモノポールの畑のワイン。樹齢が60年以上という古木から来る肉厚のボディと滑らかなタンニン、上質な酸とのバランスは絶品です。ロマネコンティを買うよりもこのワインを10本をおすすめしたい?!
クロ デ ランブレイ
ドメーヌ デ ランブレイの実質的なモノポールであるグランクリュのクロ デ ランブレイ。重厚感ある果実味とシルキーなタンニン、生き生きとした酸とのバランスは素晴らしく、エレガントな仕上がりの逸品。
おわりに
ソムリエになりたての頃クロドタールを入手し、飲んだ覚えがあります。ヴィンテージは忘れましたが、まだ2万円程度と価格も安かった。ボルドーの力強さに憧れていた時でしたので、ピノノワールの繊細な味わいとクリアな綺麗な色合いと香りに、感動を覚えた記憶があります。カベルネはボルドーを凌ぐようなワインが世界中で生み出されていますが、ブルゴーニュのピノノワールはやはり特別な存在だと感じます。
天候不順でブルゴーニュはじめ、ワインの世界地図が変動しつつあります。モレサンドニもまた、どんどん価格が上がってくると思います。まだ経験のない方は是非トライしてみてください!ところで世界的に有名なブランドを持つ企業が、畑を買収するって少し複雑な気持ちになりますよね。