ブルゴーニュのコートドニュイ地区の名前の基になったニュイ サンジョルジュ。ヴォーヌロマネや、ジュヴレシャンベルタンのようなピカピカした派手さはありませんが、調べると結構素敵で趣のあるワインを造っていたり、時代に翻弄されて輝くことが出来なかったりと、非常に興味ある村だと気が付きます。
ニュイ サンジョルジュとは
ニュイ サンジョルジュ(Nuits Saint Georges)とはフランス・ブルゴーニュ地方のコートドニュイ地区にある村名のAOCです。区画としてはニュイ サンジョルジュ村(村ではなく大きいので町でしょうか)とプレモープリセ村一帯を指します。ピノノワール100%で造られる赤とシャルドネ100%の白ワインがほとんどで、栽培面積は赤が299.98ヘクタール、白は8.71ヘクタールです。コートドニュイ地区では比較的大きな面積を持っています。年間平均生産量は赤が約160万本、白が約46,000本。
ちなみにサンジョルジュとは聖ゲオルギオスのフランス名でドラゴン退治の物語で有名な聖人の名前です。フランスでは村の名前などに聖人の名前を付ける事が多いようですね。ニュイは夜を意味します。
ニュイ サンジョルジュの特徴
この地区があまり注目されないのは、グランクリュのワインが無いからでしょうか。隣接する隣村のヴォーヌロマネには、ロマネコンティはじめ凄いグランクリュがたくさんあるのに、ここにはスーパースターが不在なのです。ところがプルミエクリュは何と41も存在するという少し特殊な村です。これは少し複雑な経緯があるので歴史の項でご紹介します。逆に言えば、スーパースターは居なくても、スターはたくさんいるってことですよね。
産地の特徴と味わい
この地区の土壌の特徴は、町の中央に流れているムーザン川を挟んで、北と南、そしてプレモープリセ村の3つのテロワールに分けることが出来ます。北はヴォーヌロマネに隣接し畑の向きもヴォーヌロマネの畑と同じ方向を向いており、また石灰質土壌であるためヴォーヌロマネに近い繊細で優美な味わいになっています(隣接している一級畑オーブードは、悔しいでしょうね!自分もヴォーヌロマネ村に入りたかった・・て)、南は粘土質泥土が多く、色調が濃く引き締まった味わいで、長期熟成に向いた力強いワインとなり、ニュイ サンジョルジュの味わいの個性を持つと言われています。
プレモープリセ村は石灰質土壌が広がっている為、比較的ミネラルを感じる軽快で繊細なワインとなる。白ワインも造られており、モノポール畑が8つも存在している。自分の村名ではなく、ニュイサンジョルジュとして出さなければならないのは、少し不満でしょうね!ブルゴーニュワイン委員会が公表している味わいの特徴は「若い時のアロマは、チェリー、いちご、カシス。熟成させるとなめし革、トリュフ、毛皮、ジビエ。骨格がしっかりとしており、余韻が長く、数年熟成させると素晴らしくなり、熟成後はまろやかで官能的になり気品がある」。グランクリュが無いというだけであり、味わいについてはやはり他の村に劣っているわけではないのです!!
簡単に言い切ってしまえば、ヴォーヌロマネを少し力強くさせた・・またはジュヴレシャンベルタンを少し優しくした・・ようなニュアンスを持つワインと言えば分かりやすいかも。
ニュイ サンジョルジュの歴史
古くからワイン造りが盛んであったこの地に1892年に鉄道が通るようになり、駅がニュイ ス ボーヌ「Nuits sous Beaune」と名付けられ、村も同じくニュイ ス ボーヌ村と呼ばれるようになりました。しかし住民は隣のコート ド ボーヌと同じ「ボーヌ」と呼ばれるのを嫌い、村名の改名運動が始まります。この運動が村を二分することになります。当時はその地の代表する畑の名を冠するのが一般的でしたので、「レ サンジョルジュ」を押す派と「ヴォークラン」を押す派の投票があり、僅かの差でレ サンジョルジュルジュ派が勝利し。村の名前がニュイ サンジョルジュとなったのです。
グランクリュにしなかった畑
19世紀にはこの村の「レ サンジョルジュ」の畑は、グランクリュに相当するとの資格と名声を持っていました。1936年にAOC発足の際、レ サンジョルジュの所有者であるドメーヌ アンリ グージュは、その際に格付けの査定に関わっていました。ところが自社の畑がグランクリュを名乗れるのに、それをせずに認定を断ってしまいました。
理由のひとつが、村名を決める際に揉めた経緯がある事です。査定に関わっていたドメーヌが、自分の畑をグランクリュにするという事は、他の畑が劣っている事を意味し、また村に騒動が起きてしまうのではないかと考えた事。もう一つの理由が、グランクリュ認定されると税金が上がってしまい、その対価をネゴシアンが支払ってくれるかという不安があったこと。以上の2点からグランクリュ申請をせずに、一級畑にとどまったと伝えられています。税金の問題については、かつて日本の清酒でも等級の税金があり、それを嫌がり二級酒のままでいい・・なんていう蔵元が多くあった時代もありましたね。(平成4年に廃止)
現在では、村にグランクリュが存在しないのは、村全体の売上の問題になるとして、レ サンジョルジュをグランクリュに認定してもらうべく申請をして活動をしています。しかしこれには土壌の調査や、他の畑の所有者の同意など色々な手続きを経なくてはならず、数年の時間を要しますが、きっといつかグランクリュが誕生するでしょう。ひょっとしてレ ヴォークランもかも!
月のクレーターにサンジョルジュの名が付いている
フランスの小説家ジュール ベルヌの「月世界旅行」の中に、月を想ってニュイ サンジョルジュのワインを飲むシーンがあります。19世紀後半の小説で大砲に乗って月へ行くというとてもクラシックな発想ですが、月への想いも当時の人たちは未来への夢だったのでしょう。
1971年にアポロ15号が月に着陸した際、スコット船長は着陸したクレーターにニュイ サンジョルジュのラベルを置き、そのクレーターを「サンジョルジュ」と名付けたそうです。もう~スコットさん・・センチのなね! ジュールベルヌの小説に想いを寄せた何ともロマンティックなお話です。ちなみにニュイ サンジョルジュの街の中には「サンジョルジュ・クレーター広場」があるそう。
代表的なプルミエクリュの畑
いつになるか分かりませんが、レ サンジョルジュはグランクリュへと昇格することを考えると、今が「買い」ですね!何よりグランクリュ相当のレベルと認められているわけですから・・。それに加え、ヴォーヌロマネに隣接の畑もやはり注目すべきではないでしょうか?
レ サンジョルジュ
前述したようにニュイ サンジョルジュの名前の由来になった畑であり、グランクリュ申請をしているトップの一級畑です。川を隔てた南側にある畑で粘土質が多く砂利が混じっている為に、水はけが良いとされています。凝縮感を感じる骨格のあるワインはこの地の特徴的な味わいとされています。
レ ヴォークラン
レ サンジョルジュに隣接した上に位置しており、レ サンジョルジュよりも場所は良いのでは・という気がします。味わいも似ており、凝縮感のある濃厚な味わいです。土壌はやせた土地の為かヴォークラン(=価値のない)という名前ですが、付けた人はあまのじゃくなのでしょうか?村名を決める投票では、村名が「価値のない村」ってなるところでした。
オーブード
北のあるヴォーヌロマネ村に隣接している畑で、土壌も石灰質であるもはやヴォーヌ ロマネのワインの特徴である繊細で官能的な味わいを持っています。という事は、ヴォーヌ ロマネのプルミエよりもこのオーブードはお買い得だと思うんですけど。
オー ミルジュ
オー ミルジュもまたオーブード同様です。ヴォーヌロマネの土壌に似ており繊細な味わい。それにやや力強さを感じるワインで、これもお買い得エリアワインでしょう~。
レ カイユ
レ カイユはレ サンジョルジュに隣接しており、土壌もサンジュルジュ同様粘土質主体です。その為力強いパワフルなワインとなりますが、エレガントなイメージも兼ねそなえます。サンジョルジュと比較して女性的なワインと表現されます。
プルミエクリュ41の畑一覧
Aux Argillas | Chateau Gris | En la Perriere Noblot | Les Porrents Saint Georges |
Aux boudots | Clos Arlot | La Richemone | Les Poulettes |
Aux Bousselots | Clos de la Marechale | Les Argilleres | Les Proces |
Aux Chaignots | Clos des Argillieres | Les Cailles | Les Prulieres |
Aux Champs Perdrix | Clos des Corvees | Les Chaboeufs | Les Saint Georges |
Aux Cras | Clos des Corvees Pagets | Les Crots | Les Terres Blanches |
Aux Murgers | Clos des Forets Saint Georges | Les Damondes | Les Vallerots |
Aux Perdrix | Clos des Grandes Vignes | Les Diders | Les Vaucrains |
Aux Thorey | Clos des Porrents Saint Georges | Les Hauts Pruliers | Ronciere |
Aux Vignerondes | Clos Saint Marc | Les Perrieres | Rue de Chaux |
Chaines Carteaux |
おすすめのニュイ サンジョルジュ
プルミエクリュ
アンリ グージュ レ サンジョルジュ
ニュイ サンジョルジュの名前のになった畑のワイン。アンリ グージュはこの畑の44%を持つ一番大きいドメーヌ。平均樹齢が55年と古く、濃厚で深い味わいは実質この村のグランクリュとして名声を誇っています。グランクリュに昇格する前に入手すべし!
ベルトラン アンブロワーズ レ ヴォークラン
プレモープリセの重鎮といて名高いベルトラン アンブロワーズのヴォークラン。 レサンジョルジュと双璧をなすヴォークラン。そんな銘醸の一級畑にしてはかなり価格を抑えた良心的なドメーヌ。設立当初はネゴシアンとして活動してきましたが、今は自社畑を増やして、クロドヴージョやエシェゾーなどのグランクリュまで手掛ける。
ジャン グリヴォ オーブード
ヴォーヌロマネの名門ジャン グリヴォの自社畑のオーブード。ロバートパーカー氏より常に評価を得るこのドメーヌの看板畑の一つです。平均樹齢60年のぶどうを使い、濃厚でエレガントな味わいはヴォーヌロマネを想わせ、ジャングリヴォ渾身の一本。
愛飲者の口コミ レヴュー
さすがジャングリヴォですね・・ジャン グリヴォは『ボシエール』を飲んでからファンになり、こちらのワインも気になったので購入しました。色はやはり透明感のある明るいルビー色、ジャムの様なベリー系の香で果実味も感じますがタンニンも程よく感じるのでバランスよく、飲みやすくてスイスイ飲めちゃいます。やっぱりジャン グリヴォのワインは美味しいですね。最近、『ボシエール』も値上がりしたし、ワインが少しずつ値上がりしているのでこのワインも今のうちにリピ買いしようと思いますー匿名さんー
アルノー ショパン オー ミルジュ
7代続く伝統あるドメーヌが世代交代をし、ブルゴーニュの明日を担う期待の若手醸造家によるオー ミルジュ畑のワイン。全て手作業で行い自然に配慮した栽培で、より凝縮度を増したワインを仕上げる。ラベルデザインを見ても世代交代された新しさが見えるようです。どの世界でも歴史は受け継がれていくのですね。
ロベール シュヴィヨン レ プリュリエ
ニュイ サンジョルジュを代表するドメーヌのシュヴィヨン。この地で多くのプルミエクリュの畑を持っている第一人者であることは間違いない。ヴォークランの畑では樹齢100年を超えるものもあるという。ここではあえてプリュリエ押し。粘土質土壌により力強さを特徴とする畑だが、シュヴィヨンにかかると優雅で繊細さが加わり、魔法にかかったような味わいに!
村名ワイン
パトリス リオン
醸造について非凡な才能を持ち、注目を浴びているパトリス リオンの村名ワイン。ぶどうをただ買い付けるだけのネゴシアンではなく、栽培の指導を行い最良のぶどう育成にも力を入れている。このワインは樹齢60から75年のヴィエイユヴィーニュで年産3000本のみ。自社畑も私有している。ラベルデザインもどことなく宇宙を感じさせるのは、ジュールヴェルヌの影響かな。
アンリ フェレティグ
デキャンター誌のブルゴーニュ特集で「New Tarent in Burgundy 5」のうちの一人に選ばれれ、近年優れたワインを生み出していると評判のドメーヌの村名ワイン。「偽りや飾り気が全くなく、ピュアで正しく造られた素晴らしいワイン」と評価されています。まぁ、その評価って結構気になります。生産者本人は「力強さよりも女性的で繊細なワインを造りたい」とのコメント!2018年ヴィンテージよりラベルデザインを変更。
シルヴァン ロワシェ
シルヴァン ロワシェは2005年に創業した新進気鋭のドメーヌ。その時、何と彼は弱冠21歳だったと言います。ライジングスターと注目され、18ものアペラシオンからモダンで洗練されたスタイルのワインを生んでいます。天然酵母を使用し、醗酵時になステンレスタンクは使用せず、手間のかかる樽醗酵を行っています。これはタンクを用いて温度管理をすると果実が持つフレッシュさが失われてしまうと考えているためだそう。イケメンなので写真を載せておきます。
ニュイ サンジョルジュに合う料理
ブルゴーニュワイン委員会がソムリエ向けに発信している料理をご紹介しましょう。ニュイサンジョルジュは、コクがあり力強い。味の濃いどっしりとした風味の肉が合う(ローストラム、リブステーキ、鴨の胸肉、スペアリブの柔らかい煮込み料理。ワインが肉の繊維をとらえて包み込む。同様にジビエも熟成したワインが持つ野性的な動物のアロマとマッチする。チーズはエポワスなどのウォッシュタイプがよい・・・。どちらかというとヴォーヌロマネの繊細さよりも、ワインは骨格があり力強さが目立つピノノワールなのでしょう。もしレストランなどでジビエ料理があれば、是非お試しあれ!
おわりに
グランクリュが無いせいで今まであまり注目されていませんでしたが、最近は新しい生産者や世代交代で、その真価が見直されているようです。ワインの価格は野菜と同じく、需給バランスで決まります。今後この村のワインは値上がり必至、注目しましょう。それにしてもピノノワールは何と罪作りなんでしょう。土壌によって気分を変える・・天候が悪いとふてくされる・・機嫌が良いとまるで女王のように光り輝く。ブルゴーニュのピノノワールはやはり唯一無二!