近年ワインのお客様で、ワイン探しの際にインポーターがどこなのかを気にする方が増えて来ています。どうやら「おいしいワインはインポーターで選ぶ」なる本が出回ったことによるものらしいので、今回は親しくさせて頂いているモトックスさんというインポーターを紹介します。現在では輸入ワインのみならず、日本ワインや清酒のメーカーと手を組んで魅力ある商品を発信し続けています。我々酒類量販店から見るインポーターの存在を書いてみます。
彼らとの出会い
今から30年近く前です。当時はまだ酒量販店は、ディスカウント店と呼ばれていた時代で、私の量販店も4店舗のみ。まだまだ黎明期であり酒類の小売免許も規制が掛かっており、今のようにスーパーやコンビニなど、どこでもお酒が買える時代ではありません。よって売上も絶好調で推移していましたが、ワインの品揃えや売り方がわからず苦労していた時代・・・そんなときにモトックスさんの営業マンが飛び込みでやって来ました。モトックスさんは酒類卸業からワインの輸入業に大きく舵をとって、社名もモトックスと変えて間もない頃でした。
何度かのワインブームと呼ばれる時はあったものの、日本人一人当たりの消費量は1リットルにも満たない時代でしたから、酒屋にとっても未知なものであり、どう扱って良いか迷走していたわけです。モトックスさんの提案は「三段の棚を三列、9つのスペースを任せて欲しい」です。三段は価格の違い、三列は赤、白、ロゼ。たった9種類のワインで勝負しましょう!という事です。売れ方によって変えていきましたが、酒屋も消費者もこの棚は明快です。ビールメーカーのワインも含め、まだ50種類も置いて無い時代で、POPもまともに付けられていない売り場に、9種類のワインの内容がしっかりと分かるPOPを付けました。彼らのおかげで、ワインの売上が飛躍的に伸びたのを覚えています。まだ黒猫がいっぱいいる頃の話です。
ワインの目利き
モトックスさんの扱うワインは非常に多岐に渡っています。世界中のワイン産地はほぼ網羅しており、国限定のインポーターとは一線を画しています。価格帯も激安ワインは扱わず、高額なヴィンテージ物もメインとはしていません。カタログ価格で900円前後から3000円程度がボリュームゾーンです。味わいと価格のバランスが崩れている人気ドメーヌなどはほとんど手を出しません。
以前何度かマーケティング部の方々と、海外へ買い付けに同行させて頂いた時がありました。その時に気が付いたのが、彼らはワインそのものよりも造り手に注視している事。造り手の背景であるとか、どんな熱量を持って生産しているのかとか、輸入する判断材料は味わいと価格とラベルデザインだけではありません。モトックス流の選別が秀でていたからこそ、今の日本のワイン消費があるのだと思います。「モトックス」以前にも多くのインポーターは存在していましたが、一般消費のすそ野を広げる程ではありませんでした。現在の日本のワイン市場を拡大させた要因では、モトックスの感性ある目利きが多いに貢献した事は間違いありません。
ビールメーカーは最大手のワインメーカーのものしか輸入しません。よってついつい偏りがちになってしまいます。チリの安価なワインが良いと噂されれば、日本中がそれで埋め尽くされてしまいます。流行を嘆いているわけではなく、市場を育てようとはしないのです。あるディスカウントチェーンが数年前に、激安なペットボトルのボジョレーヌーヴォーを販売しました。案の定、ワインとは言い難い代物で、翌年のヌーヴォー全体の売上が落ち込みました。不味いヌーヴォーを飲んだ消費者が離れて行ってしまったのです。目の前の売上を気にするばかりに、自分の首を絞めたようなものです。
スマートなスタッフとカタログ
彼らの強みは、スタッフの誠実さとカタログにあります。営業スタッフのほとんどが20代で構成されており、自分が扱うワインに情熱を持っていることに驚かされます。ワインの世界に入ってまだ数年のスタッフは、勉強熱心で味の流行にも敏感です。もちろん経験則で言えば、未熟な部分もあるのでしょうが、商品のプライドと仕事への取組みは、他のインポーターのスタッフと一線を画します。営業先の酒屋のオヤジの意地悪な質問も、難なくこなしていきます。当社の担当は若いMM女史ですが、カタログにびっしりとメモ書きがされています。異次元な勢いで知識を吸収しているのでしょう。試飲会がなかなか出来ない現在、ワインとグラスを持ってきて試飲させてもらっています。さぞ面倒な事だと恐縮しています。
また彼らのカタログは年に一度作成されます。印刷コストが結構かかるであろうカタログですが、その大切さを心得ているのでしょう。実際我々酒販店にとっては、とてもありがたいものです。これも他のどのインポーターよりも見やすく整理されたもので、感心します。売る側にとってまた消費者にとって、如何にわかりやすいPOPが出来るかを考えているのでしょう。季節ごとのスポットものにも、若いスタッフのアイデアが織り込まれており、インスタ映えなどは欠かせません。
インポーターはソムリエそのもの
前述の本「おいしいワインはインポーターで選ぶ」は読んだ事はありませんが、確かにインポーターごとにワインの傾向に違いを感じることがあります。海外のワインをセレクトする時点で、担当者の好みなどは反映されるのでしょうが、その選定ラインでは各社決まったセレクトポイントがあるのでしょう。担当者が変われど味わいやそのニュアンスは系統されていっているようです。簡単に言えば、当たりはずれの振れ幅が大きいインポーターと堅実なインポーターの違いでしょうか。
モトックスさんは堅実なインポーターの最右翼です。誰でも知っている有名ワインを多く扱っている訳ではありませんが、ハズレのワインが見当たりません。エノテカさんのような煌びやかなコピーや広告が無くても、その感性はブレずにいます。ワインバーなどの多くのプロが好むのも、なるほどと感心します。
おわりに
あくまで上記は個人的感想ですが、間違いなくモトックスさんはお勧め出来るインポーターさんの一つです。一つの生産国に特化しているインポーターさんも、深堀マニアには美しく映るでしょうが、世界を見渡せるモトックスの品揃えは、宝石をちりばめたようなワクワク感があります。さて・・・酒屋に行って迷ったらバックラベルをチェックすべし!