チリはあまり日本にとってあまり馴染みのある国ではありません。南半球の南アメリカ大陸に細長く位置していて、首都はサンチアゴくらいでしょうか?ワインの産地である事は誰もが知るところです。1995年から日本のワイン輸入量がフランスを抜いて6年連続トップとなっています。ビール系メーカーさんの動物が描かれたワインは、日本中どこでも買うことが出来る親しみのあるワインとして認知度抜群です。
チリワインの特徴
コストパフォーマンスが高い
チリワインが安くて美味しいと評判が広まったのが、1997年頃の「チリカベ」ブームからです。チリカベとはチリ産のカベルネソーヴィニヨンのことで、値段の割にしっかりとして美味しい赤ワインであると日本でブームになりました。今でも「旨安ワイン」として人気があり、しいては日本のワイン輸入量がトップになっています。これは、チリの物価が非常に安く、ワイン製造にまつわる人件費はじめ土地の取得費など、総じて安く抑えることが出来るからです。
また日本とチリは2007年に経済連携協定(EPA)を締結し、チリワインの関税を段階的に下げ2019年より関税は撤廃されてゼロになっています。(ワインの関税=価格の15%または1リットル当たり125円のうち低いほうの税率が適用)EU諸国とのEPAも2019年に撤廃、オーストラリアは2021年撤廃ですが、関税はワインの価格が安いほうがインパクトがあります。
ぶどう栽培の環境が良い
チリは世界で最も細長い国であり東西4300kmの長さがあります。そのうちの首都サンティアゴを中心に約1000kmにぶどう栽培地が位置しています。海側ではペルー海流が流れ右の山側ではアンデス山脈があり、地中海性気候となります。標高が高いので昼夜の温度差があり日照時間も長く、また雨が少ないのが特徴で、まさにぶどうの栽培にはうってつけの環境となります。アンデス山脈からの水流があるにせよ、雨が少ないので灌漑は必要となります。
ヨーロッパより安定した気候の為、ぶどうはほぼ無農薬で育てられ手摘みが一般的です。必然的に質の高いぶどうが出来、ワインの品質も良くなるのです。日照時間が長いという事はぶどうの完熟度にも影響し、カベルネソーヴィニヨンなどの赤ワインは総じて濃くフルーティーなものに仕上がります。また標高の高い土地では白ぶどうに必要とされる冷涼な気候を持ちます。夜には山間から冷たい空気が流れ昼夜の温度差を広げてくれます。
19世紀後半にアメリカからフランスに持ち帰った苗木から端を発したフィロキセラ(ブドウネアブラムシ)により、フランス、イタリア、ドイツ、スペイン、ポルトガル、オーストリア、アメリカ、ニュージーランドなど世界中のぶどうの樹が被害にあった時でも、チリはこの環境ゆえにフィロキセラの害を逃れました。
チリワインの産地
チリのワイン産地は北から以下の4つの地方に分かれます。
コキンボ地方
ぶどう栽培の北限でエルキヴァレー・リマリヴァレー・チョアバヴァレーがあり、1000~2000mの高地で乾燥した土地です。チリで良く飲まれるピスコというぶどうから造る蒸留酒、はエルキヴァレーが産地として有名です。
アコンカグア地方
南アメリカ大陸で一番高い山であるアコンカグア山(6962m)周辺です。雨はほとんど降らず、晴天は年間300日にもおよびます。アコンカグアヴァレー、カサブランカヴァレー、レイダヴァレーなどが有名です。
セントラルヴァレー地方
チリで最も有名な産地です。中でもマイポヴァレーは高級な赤ワインの産地となります。その他クリコヴァレーやマウレヴァレーがあり、フランス・ボルドースタイルのワインを主に造っています。マウレヴァレーはチリ最大の産地であり、チリの栽培面積の約半分を占めます。
サウス地方
イタタヴァレーやビオビオヴァレー・マジェコヴァレーがあり小規模な栽培地が多く、主に国内消費用のワイン造りをしています。今でもパイス種(16世紀に持ち込まれたぶどう品種)を多く栽培しています。
チリワインの歴史
- 16世紀・・・スペインがチリを征服、スペイン人が多くチリに入ってくる。宣教師がミサに使うためにパイス種のぶどうを持込み、ワイン造りを始める。
- 1851年・・・シルベストーレ・オチャガビアがフランスから国際品種を持込み、ワイナリーを造る。現代ワイン造りの始まりとされ、オチャガビアは「チリワインの父」と呼ばれる、このワイナリーは現在でもワイン造りをしている。
- 19世紀後半・・・世界中でフィロキセラが流行し、特にヨーロッパのワイン産地が全滅。チリは被害にあわなかった。フランスから多くの醸造家がチリに移住。
- 1979年・・・スペインのミゲルトーレスがセントラルヴァレー地方のクリコヴァレーに進出。ステンレスタンクによる発酵などを始め、チリの設備が近代化され始める。
- 1994年・・・チリでメルローと間違えて栽培されてきたメルローがカルメネールであると発見される。カルメネールはフランス・ボルドーの原産種で、19世紀後半に絶滅したものと思われていた。現在はカルメネール種はチリの主品種。
- 1995年・・・チリのワイン法が完成。日本でチリカベ(=チリのカベルネソーヴィニヨン)ブームでチリワインが注目される。
- 1998年・・・フランス・バロンフィリップ社とコンチャイトロ社が共同で「アルマヴィヴァ」発売。チリの最高峰とされた。(ちなみに、バロンフィリップ社はアメリカ・モンダヴィ社と共同で開発した「オーパスワン」は1978年)
- 2019年・・・日本でのチリワインの関税が撤廃される。
チリのワイン法
1995年に農業保護庁農政局(S.A.G)によって原産地呼称D.O(=Denominacion de Origin)の制度が制定されました。産地・ぶどう品種・収穫年を名乗るには当該のぶどうを75%(海外輸出向けは85%)以上の使用が必要になります。D.Oは地方リージョンD.Oの中にサブリージョンD.Oが存在します。(例:セントラルヴァレーD.Oの中にマイポヴァレーD.O)、その他原産地呼称の無いワイン(=チリ国内のぶどうを使ったワイン、品種を記載する場合は75%)、テーブルワイン(=食用ぶどうで造られるワイン、収穫年、品種の記載不可)
おすすめのチリワイン 9選
モンテス アルファ カベルネソーヴィヨン
モンテスは1988年に登場した「世界最高峰のチリワインを造る」という信念のもとスタートしたワイナリーです。実際フランスの5大シャトーをライバル視して造り上げた「モンテスアルファM」はオーパスワンを凌ぐ評価を得ています。モンテスの中でもアルファはリーズナブルな価格でありながらこだわりの醸造で高品質な味わいに仕立てています。カベルネソーヴィニヨン主体でメルローを混醸しフレンチオーク樽12カ月と、まさにボルドースタイルでフランスのボルドーに真っ向から勝負する自信があふれた逸品です。モンテスのシリーズはエノテカさんが輸入しています。
バルディビエソ カウケネス ピノノワール
バルディビエソは1879年南アメリカで最初にスパークリングワインを造ったパイオニア的存在のワイナリーで、現在はチリ国内でスパークリングワインのシェア65%と圧倒的な知名度を誇ります。セントラルバレーにあるカウケネスDOに持つ単一畑から造るピノノワールをおすすめします。フレンチオーク樽12カ月で凝縮したブラックベリーにエレガントで甘いスパイス香、程良いオーク香もありキノコのようなフレーバーも感じられます。引き締まった酸味と深い果実味のバランスは最高です。ブルゴーニュの2000円台のピノノワールでここまでのクオリティを見出すのは至難の業です。チリのパフォーマンス恐るべし!
ペンコポリターノ
ペドロパッラ氏という地質学者さんのワイナリーのワインです。彼はデキャンター誌という専門誌にワイン業界に最も影響のある50人に選ばれている人で、ワインスペクター誌にも「現代のインディージョーンズ」と称されています。ぶどう品種はサンソー67%バイス33%で、フレッシュな赤系ベリー、チェリーやリコリスのアロマを持ち透明感のある果実味とミネラル感が魅力です。「死ぬまでに飲みたい101本のワイン」の著者マーガレットランド氏がデキャンター誌に10本の推奨ワインとして選び、本物のワインファン向けの隠れた名品と称えられた渾身の1本です。
バルディビエソ マイポヴァレー カベルネソーヴィニヨン
バルディビエソがマイポDOに持つ単一畑のカベルネソーヴィニヨンです。リッチなブラックベリーやチェリーの完熟アロマにスパイス香。ヴェルヴェットのように解けるタンニン。ドライフルーツや大地を想わせる香りに繊細なミント香。満足の一本です。50%天然酵母醗酵 ステンレスタンク、フレンチオーク樽12カ月(新樽比率 25%)
クロデフ カウケニーナ
チリワインに初めて本当の意味でのテロワールの概念を持ち込み、数々のスーパープレミアムなチリワインを成功させてきた、世界が注目するテロワリスト『ペドロ・パッラ氏』。クロ・デ・フは氏が究極を追い求めて、辿り着いた、自らが手掛ける渾身のブランドです。レッドベリーやブラックチェリー、ブルーベリーのアロマを持ち、黒胡椒やお茶の葉、アクセントにスミレの花も香ります。新鮮なベリーの果実味とシルキーで伸びやかな口当たりが魅力です。カリニャン 33%/パイス 25.5%/プティット・シラー 11%/シラー 10.3%/ポルトゥゲ・ブルー 9.8%/マルベック 5.4%/サンソー 5%
テロワールハンター カリニャン マウレ
チリの名門ワイナリーウンドラーガが新たなプレミアムワインを創造する革新的なプロジェクト「テロワールハンター」に参画し、造り上げたのがこのワイン。樹齢40年以上の古樹カリニャン100%による凝縮感で、レッドチェリーやブラックチェリーなどのアロマに加え、バラや白胡椒などのスパイシーな香り。フレッシュな果実味と美しい酸、良く練れたタンニンとのバランスが良く、後味にミネラルのニュアンスも感じます。ワインスペクテイター93ポイント(2015)
エスクードロホ レゼルヴ カルメネール
メドック格付け第一級、シャトー・ムートンを手掛ける名門がチリの地で造る、「エスクード ロホ レゼルヴのカルメネール100%の赤ワイン。スミレの花のようなフローラルな香りやブラックチェリーなどの黒系果実の濃厚なアロマ、甘草のようなスパイスや焙煎したコーヒー豆の繊細なニュアンスが感じられます。口に含むと、ダークチェリーの力強い果実味と共に、香ばしい黒コショウとモカの風味を伴うまろやかな舌触りがあり、力強いながらもエレガントな印象。ラペル・ヴァレーの上質なカルメネールが良く表現された、果実味豊かで心地の良い、滑らかな余韻が長く続きます。
テロワールハンター シャルドネ ウエスト リマリ
テロワールをハントするチリで唯一無二のプロジェクト、テロワールハンターのリマリヴァレーで造るシャルドネ。洋梨や白桃などのフルーツのアロマやローストしたナッツ、小麦の香ばしいニュアンスを感じます。フレッシュな果実味と、リマリ・ヴァレーの石灰質土壌に由来するミネラル感があり、ソフトでクリーミー、酵母のテクスチャーがワインにバランスを与え、長い余韻へと導いています。パーカーポイント92(2017)
バルディビエソ シングルヴィンヤード レイダ ソーヴィニヨンブラン
バルディビエソでは「卓越したワインへの飽くなき探求」と「多彩で魅力的なワインを生み出す」という二つの確固たる信念を軸に、ワイン造りと向き合っています。これはレイダヴァレーで造るソーヴィニヨンブラン100%の白ワイン。アロマティックな香りと旨味を感じさせるミネラル感。厚みのあるボディ、引き締まった酸。大地の香りやスパイス香。長くエレガントなフィニッシュが心地よいワインです。
おわりに
チリワインはかつてサードワールドと呼ばれ、それ程特徴のある有名なワインがあるわけではないと言われています。しかし安くて高品質であることが最大の特徴であり、素晴らしいセールスポイントあるのは間違いありません。5000円を超えるワインを探すのが大変な程です。これからもレンジの高い旨安ワインが登場して来るのは間違いありません。フランスも多いに危機感を持っているはずです。